Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

      “やっぱりタマが好きvv”

 


相も変わらず、気温の乱高下に振り回されて迎えた夏は、
六月の末から既に真夏日だの猛暑日だのを連れて来ていたお陰様、
大人たちへすっかりと、酷暑の何たるかを思い出させ。
しかもそんなところへ、大きな台風まで押し寄せたにも関わらず、
台風一過のあとはフェーン現象が起こってますます暑くなるはずが、
打って変わって一気に涼しくなったのへ、
ああもう秋めいて来たわねなんて、
判っていつつもそんな途惚けたことを言いたくなったお人が
一家に一人くらいはいたかも知れぬ。
そんな凄まじい始まり方をしてくれて。

  でも 実際は、
  やっと海の日が来たばっか。
  やっと暑中見舞いやお中元が、
  暦にのっとって発送されるようになったばっかでもあって

   夏の予行演習なんか要らないやいっ




      ◇◇◇


  …などという、大人の見苦しい愚痴はともかく。
(いやん)

ようやっと夏本番だと告げたいか、
蝉たちが何とかまともに“じいじいじい”と鳴き出した、
とある夏の日の昼下がり。
容赦なく降りそそぐ目映い陽射しに塗り潰されて、
アスファルトもブロック塀も同じくらいに白く照り映える中、

 「ヒル魔くんなんか、大っきらいっ!」

  おおおっと。

ひりひりしそうな陽の下、
のっけから途轍もない爆弾発言が飛び出して、
まだ多少はあった人通りのあちこちで、
えっ?と びっくりしたようなお顔が振り返る。
ここいらにお住まいのお母さんがたならば、
あらあら いつもあんなに仲よしさんでも たまには喧嘩もするものなのねぇと、
とはいえ、どうせすぐにも仲直りしちゃうのよねぇと、
微笑ましそうに笑って終しまいとなるのだが。

 ヒル魔という名前へ少しでも聞き覚えがあるのなら

同世代の小学生は、
え、あんな小さい子があんなこと言ってるぞ、
怖くないのか?という、心からの驚愕の表情を浮かべてしまい。
これが中学生世代になると、
うあ、一遍でいいから言ってみてぇ〜〜っとなり。
高校生になると、
あれが○○先輩が言ってたヒル魔って奴なのか?
いやまて、怖がってたのは兄貴か何かへ なんじゃねぇか、
だってまだ小学生じゃんかと、混乱してたりし。

 ……どんな連絡網で、どんな噂が流れてるんだ高校生。
(苦笑)

そんな皆様から一斉に注目された、
どっからどう見ても小学生、
しかもずんと小柄な二人じゃああったものの、

 「ほほぉ、嫌いと来たか。」

憎まれ口を利かれた方は方で、特にたじろぎもせずの余裕のお返事。
何だとこの野郎と、
弾かれたように居丈高にもならないところは確かに大物。
切れ長な金茶のお眸々で、ちょっぴり眇められたチラ見を飛ばされて、

 「うう〜〜〜。」

口ごもってしまった辺り、
どうやら、ふわふかな頬した坊やが何かしらへ怒りはしたものの、
ささやかな食い違い程度の話でもあったと自覚してもいなさる模様。
嫌いだとまで言ったものの、知らないからと駆け出すでなし、
引っ込みがつかないだけみたいな様相であると、
周囲の大人が感じ始めたところへと、

  みゃぁあ〜。

愛らしい独特のお声が割って入ってくれて。

 「あら、タマじゃない。」
 「ホントだわ。」

ご近所でも有名な子なようで、
トムキャットと呼ばれる、お耳と頭全体が黒という毛並みをしたネコさんが、
すっかりと乾いたブロック塀の上から、
すたたんと軽やかに降りて来た。

 “………へぇえ。”

子ヒル魔くんが感心したのは、
自分チでこそ飼ってないものの、
知り合いのお姉さんたちのところでよく見かけるせいで
ちょっとばかり知ってた習性と、
この子が見せた態度がちょこっと違ったから。
ネコというのは、そうそう滅多矢鱈と鳴くことはない。
仔猫を探す親や、親を捜す仔猫、
喧嘩の前哨戦のガンつけや、発情期のラブコールくらいのもので、
はっきりいって自己主張の必要があって鳴くのであって。
それ以外の感情表現といったら、
尻尾をくねらせたり、その身を擦り付けたりという、
それは微妙な格好で愛想を振るのであり。
ワンコのように愛嬌たっぷりのオーバーアクション、
千切れんばかりに尻尾を振って、
あんおんと鳴き、飛びついてくるなんて稀なこと。
日頃の彼らが始終寝たくっている印象が強いのと同じで、
エネルギー燃費があんまりいいとは言えぬ“肉食動物”は、
狩りと発情期以外、無駄な行動は一切しない。
その名残りが こんな素っ気なさだったりもするのだそうな。
だっていうのに こうして鳴いて見せたということは、

 “普通だと 自分へ注目してよって意味なんだけどもな。”

遊んでとか、大好きよとか、
積極的な接触を持つときにしか、こうまでくっきりとは鳴かないもの。
この時点で既に“賢い奴だなぁ”と感心しつつ、

 「ほれ、タマまで案じて出て来たぞ。」
 「あやや。/////////」

ほれ見やと指差された先に、見慣れたつぶらな眸を認めると、
お友達とのにらめっこには動じないで頑張ったセナくんも、
どういう比較なんだか、そちらさんへは別な思うところがあるらしく。

 「あ、や…えっとぉ。タマ、喧嘩なんかしてないよぉ?」

慌ててお友達の腕をとり、ほらねと見せびらかす念の入れよう。
すると、小さなネコさんは、真ん丸なお顔を何度か左右へ傾けてから、
わざわざ坊やの足元までやって来て。
小さな頭をそのあんよへコシコシと擦りつけてから、
な〜ごと満足そうに鳴いて見せる。
判ったよという合図でもあったものか、
坊やのお顔を見上げての それから、
降りて来たブロック塀を軽々と駆け上がり、
はみ出してた梢の先、緑の茂みのようなところへ
ごそごそ入ってく姿の凛々しかったことよ。

 「はややぁ〜。///////」

なかなかにカッコよかった後ろ姿を、
余韻をも堪能するかのように見送るセナくんだったのへ、

 「…お前、相変わらずタマには頭あがらんのな。」

俺様は怖がりもせんくせにと、ままそれは付け足さなかったが。
(笑)
あんな小さな存在、間違いなくセナくんよりも年だって下だろにと。
ほれ行くぞと歩き出しがてら、
ついでのように訊いてみた子悪魔くんだったが、

 「だってタマって凄いんだよぉ?」

問われたセナくん、
何てことをと言いたげに、大きな目をもっと見張ったほどであり。

 あんな小さいのに一人で夜もお外に出掛けちゃうし、
 ママがね、猫は早くお兄さんになるのよってゆってたもん。

 「えあこん使わなくっても、どこが一番涼しくて暖ったかいかも知ってるし。
  ママやセナが、れーぞーこ閉め忘れてると、
  ぴょいってドアに飛びついて閉めてくれるし。」

 「…おいおい。」

それとねそれとね、と。
おいおいは あっさりスルーして、セナくんが続けたのが、

 「ゴキブリも追い払ってくれるんだよ?」
 「お…?」

ママもセナも こあくって“きゃーきゃーっ”て ゆってるだけなのに、
そこへ走って来てくれてね、
えいって、ていって、飛びつく真似して、
追っかけてってテラスまで追い詰めてくれるのーvvと、
どんだけ頼もしいかを力説するセナくんであり。

 「……それ、今度ケータイかデジカメに撮っておけな。」
 「?? いーけど どーして?」

そんな面白い芸、動画を公開したらばどんだけカウント稼げるかと、
この金髪の子悪魔さんには珍しくも、
なかなかに子供っぽいことを思ったらしかったのは、
木陰で休んでたタマにも、絶対に秘密なんだからね?
(笑)







  〜どさくさ・どっとはらい〜 11.07.23.

   (猫素材は “さくらの猫素材”さんからお借りしましたvv)


  *いやはやお暑いですねぇ。
   子供ほど夏休みに入ったばっかなんですのに、
   大人はもう腹一杯でございます。
   日本はいつから亜熱帯地域になったんでしょうかね。

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